【特集】余市を知る 第5回
石窯と余市

第五回:シングルモルト・余市の系譜

 前回は余市蒸溜所の代表的製品である「シングルモルト・余市」をなす原酒について説明をさせて頂いた。今回は、この「シングルモルト・余市」が誕生するまでに余市蒸溜所が世に送り出してきた数々の銘酒、その系譜を中心にご紹介させて頂きたい。
 余市蒸溜所が建設させたのが昭和9年(1934年)。実際にウイスキー製造が開始されたのは昭和11年からであり、そこから大戦・本格派ウイスキーの不振など数々の苦難を乗り越えながら「ニッカウヰスキー(昭和15年)」「ブラックニッカ(昭和31年)」「丸壜ニッキー(同年)」などに代表されるような数々の銘ウイスキーを製造してきた。
 このラインナップに「シングルモルト」をいう名称を冠した商品が加えられたのは意外にも最近。昭和59(1984)に「シングルモルト北海道」が発売された。その後平成元年(1989)、ついに「シングルモルト余市」が発売。この商品は現在のシングルモルト余市とは別物ではあるが、その原型・骨格を作った記念すべきウイスキーだ。※尚、同じタイミングで「シングルモルト宮城峡」も発売されている。
シングルモルト北海道

ニッカウイスキー初のシングルモルト「北海道」。当時の希望小売価格で12,000円の高級品。

 この当時の日本は、ウイスキーブームが落ち着きを見せ始めていた頃。それに加えて、まだ「シングルモルト」という名称の意味合いを知る者も多くなかった。世界的にはシングルモルトブームが起こり始めていたが、アジアの小さな島国で造られるシングルモルトまでその勢いは及んでなかった。
 余市蒸溜所のシングルモルトが大きく注目されるようになったきっかけが訪れたのは平成13(2001)のことであった。その年、世界的なウイスキー専門誌の「WHISKY MAGAZINE」で「シングルカスク・余市10年」がベスト・オブ・ザ・ベストとして選出されたのだ。これを皮切りに、ISC (インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ)WWA(ワールドウイスキーアワード)のような世界的コンペティションで余市のシングルモルトは次々と受賞を重ねた。

懐かしの初代「余市12年」と、ベスト・オブ・ザ・ベストに選出された「シングルカスク余市10年」(限定品)

 特に2008年のWWAでは「シングルモルト夜市1987」が「ワールド・ベスト・シングルモルトウイスキー」、つまりその年の世界No.1シングルモルトウイスキーに選出されていることは特筆大書すべき点であろう。また、蒸溜所自体の世界的評価も高まり平成14(2002)には、SMWS(スコッチモルトウイスキーソサエティ)により、モルトウイスキー蒸溜所として日本で初めて認定されている。2010年代に入り、余市の人気は更に高まりを見せた。もはや「シングルモルト余市」を知らぬものは少なく、加熱するウイスキーブームと相まって神格化されたブランドの一つまでに成長した。

WWA2008で世界一のシングルモルトとなった「余市1987」。なお、このビンテージシリーズは19842000まで販売されている。

 しかし、元来生産量に限りのある余市は次第に原酒が不足していくことになる。より広がりを見せるウイスキー市場に対して、本格的なウイスキー、そして余市の味わいをさらに知ってもらうためにシングルモルトよいちはラインナップの集約・刷新を図った。それが20159月に発売された「シングルモルト余市」だ。余市の持つ重厚かつ力強い味わいを際立たせた、余市のスタイルを知るのに最適な1本である。

201591日発売された、新「シングルモルト余市」。余市らしさを味わうのに最適な1本。

 絶えず変化を続けるウイスキー市場・文化の中で、シングルモルト余市もまた少しずつ姿を変えながら世に送り出されてきた。しかし、その根底には変わらぬ技術・信念が流れている。安易な量産に走らず、あくまで品質本位を貫く姿勢こそが今日の評価につながっているのは言うまでもないことだろう。
ウイスキー余市特集