【特集】余市を知る 第1回
特集:余市を知る

第一回:余市蒸溜所・その特色

 昭和9年7月、日本のウイスキーの父とも呼ばれるニッカウヰスキー創業者「竹鶴政孝」により北海道・余市町に建設された「余市蒸溜所」。建設当時はまだジュース造りの工場に過ぎなかったこの場所だが、今や世界が注目する最高のウイスキーを産み出す蒸溜所として君臨している。
 余市蒸溜所から産み出される珠玉のウイスキー、その味わいはこの蒸溜所の何に起因して作り出されているのか?今回は蒸溜所の施設に着目し、探って行きたい。
 余市蒸溜所の敷地面積は、132,000平方メートル。数字で見るとイメージが掴みにくいが、実際に歩いてみると非常にコンパクトな施設であることがわかる。発酵槽の数は10基、蒸溜に用いるポットスチルは初溜4基、再溜が2基のみ(いずれもストレート型)。同社の宮城蒸溜所とは違い、連続式蒸溜機は備えられていないためここではモルトウイスキーの生産のみ行われている。
銅製のポットスチル。ストレート型かつ、下向きのラインアームを持つこの形状が、パワフルな味わいをもつ原酒を生む。
 蒸溜については、今や世界でも余市蒸溜所だけとなった「石炭直火蒸溜」が行われている。もはや失われた技術とも言えるこの方式を今でも守り続けることが、余市蒸溜所で生まれる原酒に力強い味わいと芳しい香味を与える。なお、蒸溜器を加熱するのは石炭による熱だが、その着火には使い終わり解体された樽材が用いられている。原酒をその内に留め、芳醇な香りと味わいをもたらす役目を終えた樽が、最後に新たな原酒を生み出す燃料となる。このサイクルが余市蒸溜所のウイスキーに理屈では説明のつかない風味をもたらしているのではないだろうか。
今や世界で唯一の石炭直火蒸溜。ただ石炭を焚べるだけではなく、量・タイミング・カン全てが調和しなければ上手く熱をを持たせることすら出来ない。
 熟成棟も同じ敷地の中に建設されており、その数は27棟。棟数だけ見れば多いように思えるが、樽の保管方法は昔ながらのダンネージ方式(輪木積み)を採用しているため敷地内の貯蔵樽数は数万樽程度にとどまっている。効率を求めるのであれば樽を大量に保管できる方法もあるが「土地の味わい」を原酒に染み渡らせるため、ここでも敢えて創業からの方式をとっている。

コンパクトな熟成棟。つくりは創業当時そのままで、その中に眠る原酒はこの土地の味わいをじっくりと吸収していく。

熟成棟内部。地面に板を敷き、その上に樽、そして又、板と樽を積む。高く積み上げることは出来ないうえに、その微妙な位置の違いが原酒の違いとなって表れる。

 施設全体を通して見られる特徴として、人の手が介在する部分が非常に多いということだ。世界的に有名な蒸溜所ほど高度なシステム化・コンピューター管理化がなされていくという流れの中、余市蒸溜所のスタイルは非常に特殊であると言わざるを得ない。しかしながら、このスタイルこそが創業者・竹鶴政孝の遺志であり・余市蒸溜所だけの味わいを作り上げる最も大きな要因となっている。

(第二回へ続く)

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