シャンパーニュ・ランソン250年の歴史と伝統

シャンパーニュ・ランソン250年の歴史と伝統

 今や小規模生産のR.Mから大手グランメゾンまで数多くのシャンパーニュメーカーがひしめき合うスパークリングワインの聖地「フランス・シャンパーニュ地方」。
 この地で約250年にわたり一貫した伝統的なシャンパーニュ造りを続け、世界中のセレブリティから愛されるメゾンがシャンパーニュ・ランソンです。シャンパーニュ・ランソンはルイナール社、モエ・エ・シャンドン社に次いで3番目に長い歴史があり、最も古いシャンパーニュメゾンの一つとされるグランメゾンです。
 今回は、この250年にわたり受け継がれ、守られてきた伝統とメゾンのスタイルを醸造責任者であるエルヴェ・ダンタン氏へのインタビューから紐解いていきます。

Harve Dantan氏


 ランソン社シェフ・ド・カーヴ。
 シャンパーニュぶどう栽培農家出身で生粋のシャンプノワーズ(シャンパーニュ人)。2013年にランソンの醸造チームに参加、2015年に前シェフ・ド・カーヴのジャン・ポール・カンドン氏のあとを継ぎ、シェフ・ド・カーヴに就任する。
 自身にとってのシェフ・ド・カーヴの役割は長い伝統の中で確立されたランソンのスタイルをリスペクトし、いかにキープするかが大事だと話し、その中で、伝統的な方法を守りながらも改革を行いワインをより良くしていく事を心がけている。

ランソン社の始まり
HERITAGE

 ランソンの歴史の始まりは1760年。シャンパーニュの中心都市であるランスで判事をしていたフランソワ・ドゥラモット氏が後のランソンとなるメゾン・ドゥラモットを設立した事で、約5,000もあるシャンパーニュメゾンの中で3番目に古い歴史あるメゾンがスタートしました。シャンパーニュで最も古いメゾンの一つであるというこの事実は今でもランソン社の大きな誇りとなっています。
 1798年には息子のニコラ・ルイが事業を引き継ぎますが、ニコラには息子が出来なかった事から、1828年にシャンパン製造の技術に長けていたジャン=バプティスト・ランソンをパートナーに迎え、ニコラが亡くなった後、社名を現在のランソンと改めました。フランス革命後の激動の時代を迎えた頃には、国外にもビジネスを広げ、1860年にはヴィクトリア朝時代のイギリス王室から御用達の栄誉を賜り、今日では世界中のVIPに愛されるトップブランドとなったのです。そんな長い歴史を支えている秘密は、250年間変わらない「伝統を守る」というメゾンのスタイルにあります。
 ランソンが造る全てのワインは、昔からの製法を重視して製造されています。これはランソンの伝統的なスタイルである「*マロラクティック発酵をしない」という事に現れています。マロラクティック発酵をしない事で何が起こるかというと、ブドウ本来の酸が生き、フルーティーかつフレッシュな味わいを長い期間にわたってキープする事ができます。それはつまり長期熟成に耐えうる高品質なワインであることを意味します。1960年以前はどこのメゾンもほとんどマロラクティック発酵をしておらず、これが本来のシャンパーニュ伝統の製法でした。しかし需要が増えた1960年以降は、ぶどうを圧搾後なるべく早く製品にしなければならず、マロラクティック発酵をし、酸味を抑えることで早く熟成させる製法が主流となったのです。
 一方、ランソンでは伝統を守り、マロラクティック発酵をしません。これはランソンにとって非常に大切な事であり、「トラディション」を守って造られた「美しく繊細な酸味が生み出すフレッシュさとブドウの質の高さを感じる果実味」がランソンの骨格として250年続く揺るぎないスタイルとなっているのです。
 
ワイン中の乳酸菌により、リンゴ酸が分解される現象。一般的に酸味が柔らかくなり、まろやかなワインとなります。

ジャン=バプティスト・ランソン

リザーヴワイン
RESERVE WINES

 ランソンのマロラクティック発酵をしないというスタイルを支える特徴の一つに豊富すぎるといってもよいほどのリザーヴワインがあり、これがランソン社の「誇り」の一つになっているとダンタン氏は言います。
 ランソン社には遡ること20年以上のワインがリザーヴされており、その数も膨大。アッサンブラージュに使用できるリザーヴワインは300種類上となります。さらに、その全てはグラン・クリュ、プルミエ・クリュの畑から厳選された高品質のブドウからのみ造るというこだわりよう。
 それストック方法もワイン一つ一つの個性を把握し活かす為、樽やステンレス、セメントと分け、その中でそれぞれの個性を活かし、非常にきめの細かいアッサンブラージュを行っています。ブリュットN.V.であるブラック・ラベルにもこの貴重なリザーヴワインを1520%以上も使用します。2014年にはリザーヴワインを30%も贅沢に使い、2000年~2013年まで、10種類のリザーヴワインが使われました。ブラックラベルにはリザーヴワイン以外も含めると100もの異なるワインがアッサンブラージュされ、メゾンのスタンダードラベルながらも、複雑で繊細な味わいが生み出されています。この豊富なリザーヴワインはランソンの品質を支えるまさにメゾンの至宝なのです。
2014には新しく23樽のフレンチオークを導入。より細かい醸造が出来るようになった。

熟成
TIME

 複雑にアッサンブラージュされたワインは熟成を経て一つのワインとなります。
 シャンパーニュの規定ではティラージュ(瓶詰め)から最低15ヶ月の熟成(うち12ヶ月は澱を伴う熟成)が義務付けられていますが、ランソン社のNVであるブラックラベルは最低でも4年間(48ヶ月)は熟成させます。そしてミレジムの場合、規定では最低3年の熟成が必要ですが、ノーブルキュヴェに至っては16年間の熟成を経て製品となります。多くのシャンパンハウスでも規定より長く熟成させますが、NVで2〜3年、ミレジムで4〜10年ほどです。ランソンのワインはマロラクティック発酵を行わない醸造方法をとり、より力強い酸をたたえているため、長期熟成に耐えうるワインとなります。この「長期熟成を経てもなおフレッシュさを感じられるシャンパーニュ 」というスタイルこそ、ランソン社の確固たる伝統のスタイルとなっているのです。
 ダンタン氏は2015年にシェフ・ド・カーヴに就任しましたが、全てのワインを監督する上で「リスペクト」を非常に大切にしていると語ります。まず、ランソンのスタイルに対するリスペクト。全ての段階で伝統を守り、スタイルを維持しながらもより良いものを造ること。そして自然に対するリスペクト。現在使われている工法をいかに自然に優しいエコロジカルなものにするか。もちろんパートナーに対するリスペクトも。良質なぶどうを供給する契約農家とは単なる納品業社としてではなく、一緒に良いものを造るパートナーとして協力していくこと。メゾンで働くスタッフに対してもそうです。そして一番重要なのはメゾンに対するリスペクト。シェフ・ド・カーヴとしての個性も大事ですが、約250年続いてきたメゾンに対するリスペクトが決してランソンを愛する消費者を裏切る事のない1本を生み出しているのです。
 伝統と革新による確かな品質のシャンパーニュをぜひ試してみませんか。
ランソンの最も古いカーヴの一つ。特別なミレジムが保管されている。
シャンパンシャンパーニュワイン