【特集】富士御殿場蒸溜所 第2回

第2回

 霊峰、富士の麓に立つ「富士御殿場蒸溜所」。前回は、蒸溜所設立の歴史とその恵まれた環境についてお話しさせて頂きました。今回はいよいよ蒸溜所の内部、富士御殿場蒸溜所の蒸留施設について迫っていきます。
 富士御殿場蒸溜所の歴史をご紹介した際、この蒸溜所は日本の「キリンビール社」、アメリカの「J .E.シーグラム社」、そしてイギリスの「シーバスブラザーズ社」の三社によって建造されたことをお伝え致しました。
 蒸溜所建設当時の日本は、まだまだ世界基準のウイスキー製造施設・技術は流入していない時代。そんななか、アメリカ・イギリスを代表するスピリッツ企業がこの富士御殿場蒸溜所に惜しみなく持てる施設や技術を投入。この結果、世界的にも珍しい複合蒸溜所が誕生することになったのです。
 富士御殿場蒸溜所の蒸留設備で特徴的なのは、シーバスブラザーズ社が製造したモルトウイスキーを製造する蒸留器と、シーグラム社が製造したグレーンウイスキーを製造する蒸留器など、複数の蒸留器を所有していることです。
 全く違うタイプの蒸留器があることによるメリットは、原酒の造り分けが出来るということです。ウイスキーの本場、スコットランドのようにいくつもの蒸溜所が存在するわけではない日本。一つの蒸溜所で様々なタイプの原酒を造ることが出来るか?それを求めた結果が複数の蒸留器を使用するというスタイルを生みました。これにより、単一の蒸溜所でシングルモルトやブレンデッドなどタイプの違うウイスキーを製造することが可能となっています。
 さて、原酒の造り分けという点においては富士御殿蒸溜所のグレーンを製造している連続式蒸留器についてもう少し詳しくご説明する必要があります。この蒸留器は一口に連続式蒸留器と言っても、実際は連続式と単式を組み合わせた複合式の蒸留器なのです。まずこの施設の内、もっとも大きいのが「マルチカラム」と呼ばれる連続式蒸留器。これは主にグレーンウイスキーの製造に使われます。蒸留を行う「蒸留塔」と呼ばれる20mもの巨大な蒸留器を5本組み合わせて蒸留が行われます。この蒸留器から産み出されるグレーンウイスキーは比較的ライトなタイプに仕上がります。次に「ケトル」と呼ばれる単式蒸留器。これはマルチカラムの第一塔「ビアカラム」と組み合わせて使用されます(バッチ式蒸留と呼ばれる方式)。この蒸留器は非常に珍しい物で、連続式蒸留よりも手間がかかる分、適度なボディ感と芳醇な香りを残したミディアムタイプのグレーンウイスキーを蒸留することが出来ます。このグレーンウイスキーは富士御殿場蒸溜所で作られるウイスキーの中核を成す存在となります。
 そしてもう一つ、「ダブラー」という蒸留器も稼働しています。これはバーボン蒸溜所でよく用いられる設備でやはりビアカラムと組み合わせて使用されます。上記2つの蒸留方法と比べて、バーボンに似たより味わい豊かで重厚なヘビータイプのグレーンウイスキーを蒸留することが出来ます。
 この複雑な蒸留システムを駆使することにより、富士御殿場蒸溜所では実に様々なグレーンウイスキーを生産しています。富士御殿場蒸溜所では、グレーンウイスキーをモルトウイスキーの引き立て役とは考えていません。名脇役でありながらも、グレーンウイスキーはブレンドにおけるキーの一つとして重要な厳守であると捉えています。
 その姿勢が、富士御殿場蒸溜所でしか作り得ない味わいのウイスキーを生み出しているのです。
(次回へ続く)

御殿場蒸溜所 自慢の蒸留設備

 こちらは富士御殿場蒸溜所の単式蒸留器(ポットスチル)。
 シーバスブラザース社の協力を得て、キリン・シーグラム社が開発しました。初留釜2基(バルジヘッド型)、再留釜2基(ランタンヘッド型)の合計4基存在します。初留、再留を経た後にはアルコール度数70%程度のスピリッツが製造されます。
 なお、富士御殿場蒸溜所では再留釜から流れ出たスピリッツのうち「ハート」と呼ばれる最も質の良い部分しか熟成には回していません。この方式自体は他の蒸溜所も行っていますが、一般的な蒸溜所が全体の60%程度を使用するのに対して、富士御殿場蒸溜所ではさらに吟味を重ね、一般的にプロダクトとして使用されるハートよりもより中心部しか使用しません。これを「ハートオブハート製法」と呼び、この製法により富士御殿場蒸溜所が目指す「クリーン&エステリー」なウイスキーが生み出されるのです。

 全長20mにも及ぶ巨大なビアカラムの一部。

 5階建ての建物のうち、25階部分を占めています。当然ながらこの蒸留器が入っている建物は蒸溜所内でも最も高く、蒸溜所自体の標高の高さも相まって最上部から見晴らしは最高。なお、立ち入り禁止エリアなのでこの眺めを普段から楽しむ特権があるのは蒸溜所のスタッフの方のみです。
 ビアカラムは外見だけ見ると一つの塔ですが、実際は何段ものブロックで構成されておりそのブロック一つ一つで蒸留が行われます。ブロックの境目には「シーブトレイ」と呼ばれる穴の空いた板が有り、アルコールを含んだモロミがそのシーブトレイを通り過ぎる際に熱い蒸気と触れ合いアルコールが取り出される仕組みになっています。
 本文中で説明した通り、この蒸留器は複雑な機構で造られており様々な配管が張り巡らされています。
 ビアカラムは外見だけ見ると一つの塔ですが、実際は何段ものブロックで構成されておりそのブロック一つ一つで蒸留が行われます。ブロックの境目には「シーブトレイ」と呼ばれる穴の空いた板が有り、アルコールを含んだモロミがそのシーブトレイを通り過ぎる際に熱い蒸気と触れ合いアルコールが取り出される仕組みになっています。
 本文中で説明した通り、この蒸留器は複雑な機構で造られており様々な配管が張り巡らされています。

アクセスマップ

[住所]〒421−0003 静岡県御殿場市柴怒田970
[TEL]0550−89−3131
アクセス
[電車利用]JR御殿場駅よりタクシーで20分
[車利用]東名高速御殿場I.Cを山中湖方面に降り、国道138号線を直進約6km進んだ右側
[設立]1973年
[発酵槽]ステンレス…8基
[蒸溜器]初溜…2基、再溜…2基、その他…連続式
[仕込水]富士伏流水
ウイスキー富士御殿場蒸溜所特集